一塁までは、駆け抜けるのとヘッドスライディング、どちらが速いか?

「一塁までは、駆け抜ける方が速いから、ヘッドスライディングはするな!」と言われてきた方も多いのではないでしょうか。

それにもかかわらず、高校野球やプロ野球でも、時として一塁にヘッドスライディングをする姿を目にします。

それでは、実際はどちらの方が速いのでしょうか?

その答えが、近年明確になってきたのです。

一塁到達、頭からの方が速い!

2018年に立命館大スポーツ健康科学部の岡本直輝教授らが学会で発表したのは、「一塁到達は、ヘッドスライディングより駆け抜けた方が速い」という定説を覆すものでした。

大学の野球部員を対象に動作分析を行い、ヘッドスライディングする方が速いという結論を導き出したのです。

高校、大学時代にヘッドスライディングを経験したことがある大学の硬式野球部員を対象に調査をしたところ、統計全体では、ヘッドスライディングの方が0・04秒ほど早く、距離に換算すると30~40センチの差となったようです。

ただし、この統計はヘッドスライディング経験者という条件下ですので、ヘッドスライディングに慣れていない子供たちは圧倒的に駆け抜けた方が速いでしょう。

なお、岡本教授は、「パフォーマンスを高めるのなら器械体操の飛び込み前転のようなトレーニングをすると効果的」と言っており、トレーニングをすることによっては更にヘッドスライディングの方が駆け抜けよりも速くなる可能性すらあるのです。

物理によるシミュレーションの結論は?

物理エンジンくんというYouTubeチャンネルがあります。 様々な「動き」に対する疑問を物理の理論からシミュレーションして検証していくのですが、このコンテンツのひとつに「一塁へのヘッドスライディングは本当に遅いのか」(https://www.youtube.com/watch?v=48KUFM1DslY)という検証があるので、ご興味があればご覧ください。

その検証を簡潔に書くと、物理学者の研究資料をもとにCGでシミュレーションするのですが、まずは摩擦がないと仮定したところ、一塁ベースの手前、10mのところからヘッドスライディングをした場合、駆け抜けと同じタイムになるようです。

そのため、摩擦がゼロの条件下では、10mよりも一塁ベースに近いところからヘッドスライディングをすれば理論上は駆け抜けるよりも速くなるのです。

しかし、実際は体と地面との摩擦があるため、かなりベースに近いところから飛ばなければ摩擦の影響が大きくなってしまいます。

(画像参照:物理エンジン)

結論からいうと、飛び込んだ後、自由落下によって、地面に手が着いたすぐにベースがある状態が最も摩擦の影響を受けず、ヘッドスライディングが有利になるため、そこから飛び込む距離を逆算すると、ベースの手前4mから飛び込むのがベストだということです。

その場合、理論上はヘッドスライディングの方が0.06秒早く一塁ベースにタッチすることができるようです。

(画像参照:物理エンジン)

ただし、スピードを落とさず、それだけベースの近くで手をつくため、ケガをするリスクは非常に高くなり、特に脱臼や骨折、突き指をする可能性があります。

ヘッドスライディングをするメリットとデメリット

結論から言うと、ヘッドスライディングの方が駆け抜けよりも速く一塁ベースに到達できるのですが、その差は0.1秒もありません。

 

一塁へのヘッドスライディングのメリットを考えますと、

・僅差であっても最速でベースに到達できる
・塁審へのアピールになる
・味方の士気を高めることができる

一方で、一塁へのヘッドスライディングのデメリットは、

・大ケガにつながるリスクがある
・特に突き指や脱臼は頻繁に起こりえる

スポーツを長く続けていくうえで、ケガをすることは最も避けなければならないことです。そのケガが自分の将来を左右する可能性すらあります。

つまり、一塁へのヘッドスライディングはメリットよりもデメリットの方が大きいので、極力避けるべきだと思われます。

特に小中学生はまだ体が出来上がっていないため、ヘッドスライディングは避けましょう。

(アメリカではそのことが良く分かっているため、リトルリーグでは帰塁以外のヘッドスライディングはアウトになります。)

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