小学生で決まる!9~12歳のゴールデンエイジに子どもの運動能力を高める方法

運動神経は小学校までで決まる?

近年の研究では、人間の神経系は「ゴールデンエイジ」と呼ばれる9〜12才(小学3年〜小学6年生)の頃までに急速に発達するといわれています。

この「人間の一生のうちで最も運動神経が発達する時期」をゴールデンエイジと呼び、子どもの成長においてとても重要な期間だと考えられています。 つまり、12~13歳には、ほとんどの神経系の機能が完成されるのです。

不安定な場所でバランスをとる平衡性と、体を急に動かしたり、変化に素早く反応したりする敏捷(びんしょう)性、体を器用に動かせる巧緻(こうち)性の調整力が向上することによって、神経系の機能が備わっていきます。

そのため、特に幼児期には、調整力が向上するように、1つの競技に偏らないように、さまざまな運動に挑戦し、全身運動を心がけることが大切になります。 速く走る、長く走る、高く跳ぶ、長く跳ぶ、受ける、振る、投げる、蹴る、回る、登る、滑る、泳ぐなどの基本的な動きを色々な遊びをとおして体験することこそが大切なのです。

小中学生の体力・運動能力が低下!


(参照:https://shiruto.jp/sports/2221/)

スポーツ庁による小中学生の体力テストの結果報告(2019年12月発表)によると、体力・運動能力が著しく低下していることが指摘されました。その要因としては、スマートフォンやゲームが普及し、室内遊びが増えたことや、外で遊べる場所が減少していることなど、色々と考えられます。

それに加えて、新型コロナウイルスの影響から、運動機会が制限されたことでの運動能力低下が考えられます。

それでは、子どもたちの運動能力をこれ以上、低下させないためにはどうすればよいでしょうか?

スポーツクラブに通っていても不十分な「基礎の動きづくり」

子供をスポーツクラブに通わせているご家庭では、「かなり運動はさせている」と思っているかもしれません。
しかし、子どもの体力・運動能力向上を研究している立命館大学スポーツ健康科学部の上田憲嗣准教授(以下、上田氏)は「スポーツクラブで専門的なトレーニングを積んでいる子でも、『体の基礎的な動き』がうまくできないことがある」といいます。

「例えば幼少期から水泳を習っていて、早くは泳げるけれど、ボールを投げさせるとフォームがおかしく、うまく投げられないことがあります。幼少期から単一の競技や専門性の高いトレーニングだけをしていると、人間が備えておくべき『基礎的な動き』の一部が抜け落ちてしまうことがあるのです。とはいえ、スポーツ習慣のある子どもは体力的には問題ない子どもが多いです。一方で、週に2〜3回の体育の授業だけで、運動機会が少ない子ども少なくありません。体力テストの結果では『全体としての体力低下』が注目されましたが、実際は運動能力の二極化が進んでいると考えられます」 (上田氏)

体力や運動能力が低い子どもたちにとっては、運動機会を増やすことが重要なのは言うまでもないでしょう。一方で、運動が得意な子でも「基礎的な動きができない」ことも多く、それも大きな問題です。
上田氏は基礎的な動き作りのためには、「動作コオーディネーション能力」が重要だと言っています。

器官同士の調整が体の動きを作っている!

人間の体の動きは脳が司っています。
しかし、人間の動きが細部に至るまで脳にコントロールされているわけではありません。

「ハンマーで釘を打つという単純な動作でさえ、肩関節、肘関節、手関節は釘を打つたびに揺らぎ、同じ軌道は描きません。しかし関節がどのような動きをしても、結果として私たちは釘を打つことができます。この仕組みについてロシアの生理学者ベルンシュタインは『人間の体の器官同士が調整し合って運動は成り立っている』と考えました。つまり、関節同士が互いに連動して、手関節が動けばそれを補うように肘関節、肩関節が動く。これが『動作コオーディネーション能力』です。一つの目的の動作に対して、頭で考えるのではなく、体全体が協応し合うことで運動は成り立っているのです。」(上田氏)

動作コオーディネーション能力は以下の7つの下位能力で成り立っています。

バランス能力:動作の中で体のバランスを保つ能力
定位能力:自分の周囲のものや人の位置を把握する能力
リズム化能力:リズムに合わせて体を動かす能力
分化能力:力を加減する能力
反応能力:外界の刺激に対して反応する能力
結合能力:走りながらボールを投げるなど、別々の動きをつなげる能力
変換能力:走り幅跳びのような、ある運動から別の運動に変換する能力

このように、動作コオーディネーション能力の7つの下位能力をひとつひとつ見てみると、どれも日常の動作で欠かせない能力なのです。

それでは、この動作コーディネーション能力は何歳になっても鍛えることができるのでしょうか

神経系の成長はゴールデンエイジに!

「いつ動作コオーディネーション能力のトレーニングをするのが適切なのか。その根拠となるものの一つがスキャモンの発育発達曲線です。生まれてから成人までの期間において、体の各器官がどのように発達していくかを表しています。
動作コオーディネーション能力、すなわち『神経系の発達』は、体の器官の中でも最も早く発達を始め、10代前半にはほぼ発達を終了します。つまり、児童期にどれだけ動作コオーディネーション能力を鍛えたかが、その後の運動能力・運動神経に影響を与えると考えられています」

このように、生涯の運動神経は、9歳から12歳あたりのゴールデンエイジ期間の運動経験で決まってしまうと考えられています。
しかし、だからといって、子どもに過度な運動をさせたりすると、体の発達を阻害してしまうこともあるため、運動の内容と量にはしっかりと留意しなければなりません

「子ども期には1年に7〜8cmも身長が伸びる時期があります。無理なトレーニングは骨の伸長を阻害してしまう恐れがあるため、体の発達に合わせた運動指導が重要です。身長の伸びのピークを迎える前は動作コオーディネーション能力を念頭に基礎的な動きを体に覚えさせることを優先すべきでしょう。成長がピークを迎える頃から持久力、そしてピークを過ぎた後に筋力の強化を始めるのが望ましいといえます。」
つまり、男子であれば、13歳ころから持久力を、15歳以降あたりから筋力強化を始めるとよいかもしれません。
ただし、トレーニングマシンを使うような身体に過度な負荷をかける筋トレは、成長の妨げとなるだけでなく、障害のリスクも生んでしまいます。 そのため、無理をせず、正しい方法でじっくりと行うことが望ましいでしょう。

負担をかけないで動きの基礎を作る

成長期には出来るだけ体への負荷をかけずに動きの基礎を作ることが重要です。
近年では、海外の指導者たちも10代前半までは、コオーディネーショントレーニングを最重要視しているといわれています。
「ドイツではサッカーのトップリーグの下部組織にコオーディネーショントレーナーを配置しているチームもあります。将来の高いパフォーマンスを望むのであれば、子ども期にパフォーマンスを完成させるのではなく、基礎を作り可能性を広げておくことが重要です。また、怪我の予防という点でも動作コオーディネーション能力は注目されています。パフォーマンスの向上を考えると同じ動作を繰り返し練習してしまいますが、体ができていない段階での反復練習は怪我の原因になります。まずはコオーディネーショントレーニングで多様な動きを体に習得させ、怪我をしづらい体を作ることが大切です」

子どもの可能性を広げるためにも、いきなり専門的な練習をするのではなく、多様な運動経験を積み、基礎の動きを作ることが重要なのはお分かりになったと思いますが、上田氏は特にバランス能力を重点的にトレーニングすることを勧めています。

それは、物を持っている時のバランスなど、バランス能力はスポーツの中だけでなく、日常の中でも非常に重要だからです。

そう言ったバランス能力を向上させる方法として、例えば、野球やサッカーをしている子どもなら、利き腕や利き足と逆の手足で練習したり、ボールの種類を変えてトレーニングするのも効果的だと言われています。

少し環境や条件を変えるだけで、動作のバリエーションがかなり変わるため、動作コオーディネーション能力の向上に効果があるのです。

このように、子供の運動能力を高めるためには、ゴールデンエイジの時期に過度なトレーニングをすることなく、様々な遊びやスポーツを通して、体の動かし方、つまり動作コオーディネーション能力を向上させることが非常に重要なのです。

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