右打者と左打者、どっちが有利?(2) ~右打者と左打者~
日本における右打者と左打者の割合は?
野球選手全体の割合を統計として取ることは非常に困難であるため、プロ野球選手(支配下登録者)を例にとり、その左打者の割合をみていくことにしましょう。
引用:『球団別インデックス | NPB.jp 日本野球機構(https://npb.jp/teams/)』
2021年8月に支配下登録されている選手をみると、右打者と左打者の割合は、セリーグで約16%、パリーグで約10%、右打者が多いようです。
つまり、右打者が約55~58%、左打者が約45%~42%という数字となっています。
なお、歴史的な割合の変化でいうと、1950年から2017年までのNPBでの打席数を比較すると、左打席の割合は右上がり傾向で、1950年に約13%だったのに対して、1998年に約40%を超え、近年も約40%から45%という高い数字になっています。
それに対し、MLB(アメリカ)ではどうなっているのかといいますと、1950年から今まで、左打者の割合が40%を超えたことは1度もなく現在も約30%程度です。 その反面、スイッチヒッターがNPBと比べて非常に多く、1977年以降は常に約10%を超え、近年も約12~15%です。 それに対し、NPBではスイッチヒッターが約3~5%しかいません。
(参照:https://note.com/aozora_data/n/ne652416e613d)
(参照:https://aprilaloisio.com/archives/3518)
左打者のデメリット
長打力に欠けやすい
「左投げ左打ち」であれば関係ないことですが、現在、ほとんどの左打者は右投げです。 つまり、生まれながらの左利きではなく、左打ちに矯正してきています。
その場合、長打や本塁打を打つ率がどうしても低くなりがちなのです。なぜなら、打球を飛ばすために重要なのは、ボールを押し込む作業で、この動作には聞き手の「パワー」が要求されるからです。 「右投げ左打ち」の選手は基本的に右手が利き腕なのですが、押し込む側の腕は左手であり、利き腕ではなくなります。 そのため、左腕の筋力を相当鍛えなければ、利き腕と同じだけのパワーを得ることができないため、長打力が不足しがちになります。
ライト方向への進塁打の成功確率が落ちる
一塁ランナーを進塁させるために一二塁間を狙って打つためにはボールを引っ張る必要があります。その場合、右打者よりもボールに対して速く振り出さなければならず、ボールを見極める時間が短くなり、ミスする確率が上がると同時に、ぼてぼてのゴロになりやすいのです。
左投手にめっぽう弱い
「左対左」では凡庸な投手が主戦級になってしまいます。 「左対左」絶対的に投手が有利となる傾向があるのです。
データは2019年の日本プロ野球(NPB)のものですが、左投手に対する左打者の平均打率は2割4分3厘で、打者の攻撃力をより正確に反映するためのOPS(出塁率と長打率の和)は.644でした。 これは左右の組み合わせ4通りの中で最も低い数字で、防御率4点台後半の左腕でも、対左打者に限れば、防御率が3点台半ばの右腕と同等の力関係になるといわれています。 つまり、凡庸な左投手でも左打者に限れば一流並みに変身してしまうため、左打者にとっては非常に不利になります。
(参照:https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57696600W0A400C2000000/)
右打者のメリットとデメリット
右打者のメリット
長打力がつきやすい
右打者はほとんどが右投げ右打ちで、利き腕が右です。 そのため、「押し込む側の手」が利き手であるため、長打力が生まれやすいという点があります。
ライト方向への進塁打の成功確立が高くなる
ライト方向に進塁打を打たなければならない場合、左打者に比べてボールを長く見れるため、流し打ちのできる右打者の方が有利だと言われています。 引きつけて打てるため、余裕が生まれ、クリーンヒットしなくても、ライトに流し、進塁させる確率が上がります。
右打者のデメリット
一塁到達タイムが左打者より遅くなる
バッターボックスから一塁までの距離が左打者より一歩分遠くなること、また、腰の回転方向から、スイング後に体勢を一塁に向ける動作が必要で、一塁までの到達タイムが遅くなってしまいます。
「右投手」が多く、出どころがみにくい
右投手のボールの出どころが見にくく、変則的なピッチャーも多いため、対応が難しくなります。また、本来、左投手の場合は、ボールの出どころが分かりやすいので、相性が良いはずですが、左投手の数が少ないため、対戦数も少なくなり、対策が十分にとりづらいのです。また、左投手からすれば、右打者は多いため、対戦も慣れており、意外に右打者への苦手意識がないのが現状です。
左打者のほうが右打者より有利なのか?
基本的には、左打者は右打者よりもバッターボックスから一塁ベースに近いため、一塁到達タイムが短くなり、きわどい当たりを内野安打にできるから有利ではないかという考えが焦点になっていると思われます。
その検証のために、メジャーリーグにおいて、走力と一塁到達タイムの関係性について、左打者と右打者を比較したデータがあり、それを見てみますと、Sprint Speed(選手のプレー内での最高速度を平均化した指標)が高い選手ほど一塁到達タイムが短くなっていて、右打者に比べ、左打者のほうが一塁到達タイムが早いのが事実です。仮に同じ走力の選手がそれぞれの打席に立った場合、左打席のほうが約0.116秒、一塁への到達が早いようです。 このことから、一塁到達タイムが短くなるという点で左打者は優れているのは確かなようです。
では、この差がどの程度、内野安打の増加につながっているのでしょうか。
選手の走力と内野安打との関係性をデータで見ると、MLBの2020年シーズンの内野安打の傾向とはゴロ系のものが約87.7%を占めており、同じ走力の選手であった場合、右打者のほうが内野安打の割合が高くなっています。特に走力が高い選手間ほどその差が顕著にみられるようです。
この結果は上記した左打者のほうが一塁到達タイムが短くなるという結果と矛盾しています。 つまり、左打者は一塁到達タイムが短いのに、内野安打になる割合が少ないのです。 この結果は、どうしてなのでしょうか。
右打者のほうがゴロが内野安打になりやすい原因として考えられるのは、打球の方向です。三遊間方向への打球のほうが、捕球から一塁への送球までの時間がかかってしまいます。 そのため、右打者、左打者ともに、その方向へのゴロが内野安打の確立を増やすことにつながっています。下図のように三遊間方向のゴロは右打者で8.71%、左打者で16.99%で内野安打になるのです。
ところが、三遊間方向への打球は、左打者であれば流し打ち、右打者であれば引っ張る必要があるのですが、引っ張った打球の方がゴロになりやすい傾向がうかがえます。 内野安打の確立をあげるためには、左打者にとっては意識して三遊間方向へ打球を飛ばす必要があるのですが、実際はその方向へのゴロは少なく、難しいのです。 一方で、右打者にとっては、引っ張れば結果的にゴロになる確率も高くなり、内野安打へとつながります。
つまり、左打者にとっては、一塁に近いという利点が実は活かしきれておらず、右打者よりも一塁到達タイムが短くなるにもかかわらず、どうしても一二塁方向へのゴロが多くなってしまい、右打者ほど内野安打がない結果となっています。
そのため、左打者の方がバッターボックスから一塁ベースに近いため有利ではないかという考えは決して正しいとは言えず、「足を活かすために左打者に転向するほうがよい」とも言えないのではないでしょうか。
(参照:https://news.yahoo.co.jp/articles/12bddda383eb8796c83f6dc361ae340dedf0cde8)
なお、投手に対する相性という点では、右投手に対する対戦成績は、左打者のほうが平均して1~2分くらい高いのですが、左投手に対しては、左打者の方がめっぽう弱いため、左打者が有利だとはいえず、むしろ右打者の方が左右に関係なく結果を出しているため対応力という意味では有利だと考えられます。
また、ホームランにおいても、1996~2015年までのセ・リーグでホームラン王を獲得した左打者は、たった4名で、通算ホームラン数の歴代トップ20人のうちでも、左打者はたったの5名(3名は左投げ左打ち)なので、やはり長打力という点では右打者の方が有利なのかもしれません。 特に生まれた時からの左利きではなく、のちに矯正された右利きの左打者は打球の強さにおいても、決して有利だとは言えないのです。
結論
結論から言うと、左打者が右打者よりも有利だということは一概に言えないと思われます。 リトルリーグくらいの年齢から「左打ち」に矯正される子供たちもたくさんいますが、その子の骨格や筋肉、性格などから一番心地よいスタイルを尊重してあげることこそが大切なのではないでしょうか。
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